結婚したら家事・育児に追われる

■シナリオーニOXX年キャリアウーマン・成子の堀合「来月、同業の企業の担当者が集まって国際会議が開かれるんだ。君も代表の一人として行ってくれたまえ」。大手化学会社の国際営業部マネジャーである成子は、数時間前、部長に申し渡された。「ただでさえ忙しいのに、海外向けの看板娘までやらなきゃならないんだから。結婚したら家事・育児と仕事の二重負担で基幹社員なんかやってられないと思って独身できたのに、会社の中でまで女は二重負担か……」。成子はつぶやいた。成子の地位は、一九九○年代なら「課長」だろうか。二十一世紀の現代は、女性社員の多くは契約社員か派遣社員、パートだ。成子のような管理職は極めて少ない。欧米でも他のアジア諸国でも、女性の管理職は珍しくなくなった。相変わらず黒っぽい背広の男性ばかりが出てくる日本の企業は、奇異な目でみられがちだ。企業側もこれに気づき、国際的な場面では、限られた女性の管理職をできる限り「有効に」使い回して、優先的に女性のメンバーを加える。最初は国際会議に出ることが少し得意だった。しかし、女性管理職が少ないため、しょっちゅう回ってくるうえ、実は社内ではさしたるポイントにもならないことが最近、成子にもわかってきた。普段のマネジャーとしての仕事に加え、「女性は器用だから」と会議に同行する男性の同僚のための資料づくりまで引き受けるため、残業の量はすさまじい。

出典:結婚相談所 比較

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女性の管理職

おまけに、成子に資料づくりを頼んだ男性は次々と別のポストへ栄転していくが、自分にはなかなか異動の話はこない。二十世紀が終わってから何十年もたつのに女性の管理職がさほど増えないのには、理由があった。九○年代、日本の大手企業は、厳しい経済環境の中で社員のすべてを「正社員」として抱え込むことに限界を感じ、社員の選別と振るい落としを強め始めた。いわゆる「リストラ」である。しかし、終身雇用の恩恵をフルに受ける層が決定権を握っていたため、完全にこのシステムを捨てるわけにもいかず、二○○○年に入ると、三○代以降の男性社員を「基幹社員コース」と「自己開発コース」に分ける人事制度を採用した。三分の一程度は幹部候補として、一応の終身雇用を保障し、昇格につれて賃金が年々上昇する「基幹社員」にする。残りは「自己開発コース」に回されるが、賃金は抑えられ、昇格も昇給もない。嫌なら、いったん会社から外れ、実績を見ながら一年ごとに契約を更新する契約社員の道か、独立するかだ。選別が厳しくなれば、いい人材が引き上げられると思われがちだが、評価の方法が相変わらずの印象批評だから、結局「やる気のある感じがする人」や「上司のウケのいい人」が基幹コースに行くことになる。個々の社員のしている仕事をひとつひとつ洗い出し、それぞれについて、社員側の反論を聞きながら評定する職務の評価ではなく、人間のムードで評定する限り、そうした結果になる、と成子はクールに見ていた。

参考:「出会いがない 社会人

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女性差別はいけない

そうした印象批評にもとづく選別強化は、女性である成子にとってはあまり歓迎できない。「オンナだ」というだけで一ランク下につける上司もいたからだ。しかし、上司に逆らって自己開発コースに回され、独立した男性の同僚は、「オトコだってあの査定には参るよ。女性の管理職も少しは入れておかないと企業イメージに響くという事情があるし、君はソッがないから、得してる方じゃないの」と苦笑する。男性の選別が進むと同時に、女性の事務職は、二○○○年に入ったころに、ほとんどが派遣社員とパートに切り換えられた。女性差別はいけないとの建前に対応するため、ごく一部の女性が「基幹社員コース」要員として採用され、その中でさらに選別が行われる。「生意気な女」と思われたりすると「協調性」の査定が下げられ、「自開コース」に選別される。多くはそこでやめるか、派遣会社に転職する。賃金は派遣社員と同じ水準なのに、契約通りの時間にきちんと帰れる派遣社員と異なり、「自開コース」は、残業だけは無制限だからだ。女性管理職が少ないのも無理はない。女性の残業や深夜業の制限は、九○年代に労働基準法が改定されてなくなった。当時は男性は労組と会社が協定さえ結べば、残業や深夜業は無制限にできる仕組みだったため、女性も同じ状況になった。「子育てや健康に支障が出る」として、男女共通の残業規制を求める声もあり、労相がいずれ残業時間の上限決めることになっていたが、その約束はいまだに「時期尚早」として果たされていなかった。コミュニケーションは大切です

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男女の賃金格差

「少子化に影響する」という女性団体の脅しがきいて、やがて「六歳まで父母のどちらかの深夜業は免除」という規定ができた。しかし、六歳をすぎても子どもが一人では暮らせるわけではない。このことが女性の派遣会社への移籍を一段と促していた。成子が疑問を持ちながらも「基幹社員」にしがみついているのは、「人開コース」だと仕事はそれなりに厳しいのに、時給ベースで基幹社員の半分から三分の一程度に落ち込んでしまうからだ。入社と同時に「基幹社員こそが会社を背負って立つエリートだ」と吹き込まれた。「非正社員」の使い捨てで人件費を安くあげた結果、「基幹社員」には定年までの仕事が保障され、退職金も法外だ。その既得権益をまもるため、このコースの人員は一定に限られ、繁忙期にも外部からの助っ人はあおげない。だから長時間労働になる。建前では有給休暇は保障されており、休めば賃金がカットされる非正社員たちより有利だが、現実には休暇はほとんどとれない。就業時間後のノミニケーションにもつきあわないと「基幹なのにつきあいが悪い」と陰口をきかれる。産休や育休などとんでもない。それでも、他のコースとの賃金格差や「尊敬度」の違いを考えると、簡単には手放せない。「退職金までこぎつければいいけど、病気でやめる人も多いから」と成子は思う。成子自身も最近、残業続きのストレスで生理がとまったり、疲れて口をきくのも嫌な日が続いている。


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離婚しても困らない女性

こんなことでは、生産性も上がらないと反省はするが、「やる気」をみせて上司にアピールしないと、「だからオンナは」といわれる。「やる気」と「協調性」は、仕事の達成度以上に重要なのだ。そもそもが、基幹社員選抜の基準が、「転勤ができるか」「子どもを産まないか」「接待にどれだけつきあえるか」「出身大学がブランド大学か」など、業績とさして関係のない項目から成り立っているのだから、当然かもしれない。厳しい経営環境なのに、そんな人材選びでもなんとかなっているのは、大手企業だけはつぶさない、という政府の方針があるからだ。九○年代、大手企業の相次ぐ倒産で、会社員たちの不安感が高まり、政府は大手企業については、「社会的影響」が大きいので極力つぶさないとの方針を出した。こんな生活では、基幹社員の離婚は少なくないが、決断できる妻の多くは実家に資産があり、離婚しても困らない女性だ。一方、実家がさほど裕福でない女性は離婚したがらない。離婚のときの妻への財産分与は原則半分との案を盛り込んだ民法改正が九○年代に通らなかったため、いまでは財産分与といってもたかがしれている。「基幹社員」の妻でいつづければ、食べるだけは安泰だ。「でも、離婚したくなくたって、相手が帰ってこないんじゃね」と数日前、久々にたずねてきた高校時代の友人の恋子が、自虐的にいった。恋子は、「愛に生きる」と宣言して成子の同僚の基幹社員と結婚。


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